ここのところ遠ざかっていた企業ブログ関連の話。
といえば「またScobleか」と思われるだろうが、実はScoble、現在企業ブログに関する本を執筆中である(よくもそんな暇があるもんだ、と思うが)。しかも、共著者であるShel Israelなる人と共に、"The Red Couch"というブログを立ち上げ、本の進行状況や関連した出来事(Googleをブログで解雇されたMark Jenとの会食の話)について書くのみならず、執筆過程で行ったインタビュー(例:Firefoxの啓蒙ブロガーBlake Ross)の内容や各章の草稿(第一章、第二章)を公開し、読者からのフィードバックを求めたりもしている。
本のタイトルはいまのところ”The Red Couch"だが、最初は"Blog or Die"(ニュアンス的には「ブログ書きますか、それとも潰れますか」)というものだったそうだ。ただ、ブログの読者からの評判が悪かったそうで、"The Red Couch"にとりあえず決めた、とのこと。
こういう「本を書きながらそのプロセスはおろか草稿を公開し、読者と共に本を作り上げて行く」というアプローチはDan Gillmorも"We the Media"で取り入れていたが、Danの場合「出版社へのプロポーザル(=ビジネスプランに相当)の進捗状況」や「出版社との交渉経過」までは書いていなかったと思う。(ちなみにThe Red Couchの序文はDanが書くとのこと)おかげでm「企業ブログ」に関連するあれこれを学べるばかりでなく、アメリカにおけるビジネス本の執筆・出版プロセスについても勉強になる面白いブログになっている。(自分の場合、祖父と叔父が出版社経営なのでなおさらである)
そしてScoble、この本の出版権を獲得した出版社(Wiley)に「企業ブログを始めること」という条件をつけたのだが(さすが)、WileyのVice PresidentであるJoe Wikertがそれに応えてブログを始めている。題して"The Average Joe"(これは「どこにでもいる、普通の人(Average Joe)」という慣用句のひねり)。
このブログ、あくまでもJoe Wikertの個人ブログということになっているが、以下のように:
One of the goals of this blog is to discuss how things work within a typical publishing company. I think the best way to accomplish this is to let you hear from some of the people who do the real work.
「このブログの目的の一つは出版業の内幕を紹介することであり、それに最も適した手段として、実際に働く人の声を紹介したいと思う」と書いている。
これを読んで思ったのだが、いわゆる宣伝目的の「期間限定PRブログ」(「やらせブログ」は論外)ではない「企業ブログ」の使い方といえば、自社製品やテクノロジーについて書き「宣伝」すると共にコメント、トラックバックを惹き付けて市場の知見や警戒すべき情報を収集することがまず思い起こされるが、それだけやっているブログというのは正直言って面白くない。
「面白いな」と思い、ついつい毎日読んでしまう企業ブログというのは製品やサービスの善し悪しや競合との比較などといった「外面」の話ばかりでなく、とかくブラックボックス的になってしまいがちな「会社の仕組み」をも垣間見せてくれるものだと思う。そうしたブログは、「自分が使っているものは、誰が何を考えて作っているのだろう」という好奇心はもちろん、自分が会社勤めをしていても、いやそれだからこそ興味深い「他所の会社ではどんな風に働いているんだろう」という好奇心を満足させてくれるのである。
就職活動で会社のことを調べるときに、事業内容の紹介などをさしおいて真っ先に「社員の声」を読む人は結構多いと思うが、それはこうした心理が作用 しているからではないだろうか?それはまた、中の部品の見える「スケルトン」構造を採用しているマシン(例:iMac初期型、腕時計)が売れる心理とも共通するのかもしれない…というのは言い過ぎか。
こうした好奇心の満足が「親近感」「安心感」「信頼感」につながるのではないか、というのはこれまた言い過ぎだが、少なくとも言えるのは、対人関係同様「自分の人となりに対して興味を持ってくれる人」というのは「好意を持ってくれる可能性の高い人」である、ということである。人の集合体である企業の場合、「人となり」は「どんな人がいいて、皆何を考えて働いているか」であろう。これこそ、"Humanizing"である。
そういう「企業の人となり」で勝負しているな、と思うのが(既にご存知の方も多いと思うが)ブラザー社員の松原さんが中心になって書いている「ブラザー社員のブログ」 。
HL-2040プリンターという個別製品を核に書かれてはいるが、実際に伝わってくるのは「(会社としての)人となり」である。開始当初から読んでいた人であれば、「製品紹介、プロモーション」がいつしか「作っている人たち、支えている人たち」「ブラザーという会社の仕組み」に焦点が移って来ていることに気づくと思う。ここ数日は「レーザープリンター印字の仕組み(1、2)」と文字通りの「ブラックボックスの中身」を解説しているが、これはこれで、手書きのグラフィックスによる説明が「人臭さ」満載である。
松原さんとは交流があるので、この意見には贔屓のバイアスがかかってはいるが、トラックバックを読んでいると「ブラザーの人となり」を面白く感じる人は多いようである。
しかもこうした「自分のブログに書いてトラックバックを打っている」人は(プレゼント応募の場合は別だが)ブラザーの『人となり』に興味を持っただけでなく、それを「他の人にも紹介しよう」としてくれているのである。こうした(潜在)ユーザーの行動の持つ効果は(数値計測できるかどうかはともかく)かなり大きいのではないだろうか。
もちろんそのためにはアップルのように「ユーザーが勝手に語ってくれる」域に達した会社(最近の訴訟などを見るとこれも少し怪しいが)でもない限り、継続的に自社の「人となり」に関するメッセージを発信し続けることが必要になる。そうした継続的発信はアップルのような「教祖」一人がやる、というアップル/ジョブスでなければできないような形ではなく、やはり集団戦法で行うのがベストだろう。
今は今で松原さんを始めとするブログの書き手が他の社員から「これをお客様に知ってもらえたら」と思うものを聞き出す、という形での集団戦ではあるが、これがもっと拡大し、社内に「自社のことをお客さんに知って欲しい」と自発的に思い、語り出す社員のネットワークが形成されれば継続性も高まるし、メッセージの力も強まると思う。舞台の上にいる人(=社員)の立場からは「舞台裏に誰が興味を持つんだろう」と思うかもしれないが、興味を持つ人は結構いるものだし、またそういう人こそが最良のファンになるのではないだろうか?
>そうした継続的発信はアップルのような「教祖」一人がやる、というアップル/ジョブスでなければできないような形ではなく、やはり集団戦法で行うのがベストだろう。
教祖とは別に側近がやって自滅した例もありますな。
Posted by: びっぐ | April 07, 2005 at 06:20 AM