昨日(土曜日)はスタンフォード大学ビジネススクールで開催された「Building for the Long Run」というEntrepreneurshipのコンファレンスに出席してきた。このコンファレンス、ビジネススクール内のCenter for Entrepreneurial Studiesが年に一回、起業家、ベンチャーキャピタリストなどを招き様々なトピックにつき講演やセミナーを行う、というもの。非常にスピーカーの質が高く、またセミナーの内容も面白いので、土曜日一日をつぶして出席する価値は十分あるイベントである。
今回はまた、最近会社を興した同級生、そして前の会社の同僚で現在ビジネスクールに在学している女性、その他知り合いとも再会できた、というオマケもあった。
昨年は経済の沈滞したムードに合わせてかイベントのタイトルも「Back to Basics」(基本に帰ろう)であったが、今年は「Building for The Long Run」(長期に向けて)になったのは景気の回復を反映しているのか、「回復してほしい」願望の現れか。
フォーマットとしては、朝に基調講演、午前中に1セッション(1セッションは4−5のトピックにつきそれぞれセミナー・ワークショップが違う教室で開催される)、昼にまた全体講演、午後は2セッション、というものである。
昨年参加した時の「目玉」はMarc Andreessenによる昼の全体講演であった。この時の話は面白いと思ったのでJTPAのニュースレターに書かせていただいた(アーカイブはこちら)が、あれからもう1年経ったことになる。今年の目玉は朝一番の、GoogleのCEO Eric Schmidtによる基調講演。「お話」としてはAndreessenの方が上手で、中身も面白かった(「仕事しないでスピーチばかりしてるからだ」という陰口も聞かれたが)な、というのが正直な感想である。
タイトルは「Scarcity to Abundance Drives Everything Tech」。特に新しいことを語る訳でもなく、「すごく面白い話」は出なかったが、「ビジョナリー」タイプのAndreessenとの対比で言うと、「プラクティカルだが、他人の突拍子も無いアイディアを生かせる」経営者なのだな、という印象を受けた。この他に印象に残ったのはIPOについて「皆騒いでいるけど、commitしているわけではないよ」という発言と、「(Googleをはじめとして)イノベーションが大学から生まれるのは、”Young people who are too foolish to stop”(自分のアイディアを盲目的に追求する思慮の足りない若者)が大勢いるからだ」という発言であった。
基調講演は「Tech」という言葉の入ったタイトルであるが、イベントとしては「ITだけがEntrepreneurshipではない」という姿勢を打ち出しており、バイオや医薬品関連の起業家、その他今年はスポーツ・フィットネス関係の起業家によるパネルディスカッションも行われている。その延長か、昼の講演はアウトドアスポーツの雄The North Faceの創業者Kenneth (Hap) Klopp氏によるものであった。
開口一番から自分は「"Often wrong, never in doubt"(間違いは犯すが、自分を疑った事はない)である」と切り出し、「long run」を志向した起業に何が大事か、について自分の経験則を語ってくれたのだが、起業というのは「人間的」な要素に依るところが大きいな、と実感した。
この他、私の出たのは「The Next Big Idea: How to find It」というパネルディスカッション(実際の話の内容はタイトルからそれ気味であったが)、会社が倒産整理の憂き目にあいながらも、その後復活した起業家ばかりを集めた「Bouncing Back」というパネルディスカッション(ドキュメンタリー映画「Startup.com」の主役Kaleil Isaza Tuzman氏、3月のJTPAシリコンバレーツアーで講演をお願いしているKamran Elahian氏という中々の豪華メンバーであった)、といったところである。
それぞ非常に勉強になるものであったが、内容については別の機会に譲りたい(まだちと消化しきれていないので)。ただ、一つ思ったのは、これは先日guest blogのsearch fundの回で取り上げた友人と話した時にも思ったことだが、起業家にはユーモアのセンス、それも自分のことを笑えるself-deprecating(これはうまく日本語にならない「自己卑下」「謙遜」というニュアンスばかりでもないし…)なユーモアのセンスが不可欠なのだな、ということ。
会社の成否が事業アイディア以上に、そのアイディアを推進する人々にかかっているとすれば、起業家には優れた人々を惹き付ける資質が重要である。そう言う意味でも、「人間力」の一環としてユーモアのセンスは大事なのではないだろうか。
今昨日自分が取っていたノートを見返してみると、最後に自分の言葉として、こんなことを書き付けている。
「Take your work seriously, but don't take yourself too seriously」
これまた、日本語にはできないのだが、ニュアンスは汲み取ってもらえるだろうか?
>それも自分のことを笑えるself-deprecatingなユーモアのセンス
自分を落とすネタで笑いを取る鶴瓶や昔のさんまみたいなニュアンスと考えれば良いのですかな。
>Take your work seriously, but don't take yourself too seriously
真面目に仕事をやれ、ただマジになるな…というような感じでしょうか。
Posted by: びっぐ | February 22, 2004 at 09:03 PM
>起業家にはユーモアのセンス、それも自分のことを笑えるself-deprecatingなユーモア
自他共に認める地位を築き上げてこそ、はじめて出来るワザですな。フツーの人がやたらめったらこれをやったらバカだがね。
Posted by: Masunaga | February 23, 2004 at 08:47 AM
びっぐ>自分を落とすネタで笑いを取る
自分を「落とす」というのとも少し違うのです。自分のミスにネガティブな形で拘泥するのではなく、笑って次に進める余裕、というのでしょうか。
masunga>自他共に認める地位を築き上げてこそ
もともとユーモアのセンスがある人が成功する、というのではなくて、成功する過程でこういうユーモアのセンスが磨かれるような人(=そういうセンスが育つような素地のある人)でないと途中でimplodeするのではないか、というニュアンスを伝えたかったのですが、どうも伝えきれていなかったようですね。
Posted by: Naotake | February 23, 2004 at 10:55 AM
>Take your work seriously, but don't take yourself too seriously
昔の上司が「真剣にやれ。深刻になるな。」と言っていたのを思い出しました。今でも心に残っている一言です。
Posted by: iida | March 01, 2004 at 09:09 PM