朝食を食べながら読んでいたMIT Technology Reviewの片隅にこんな記事を発見。
記事自体は購読が必要だが、スタンフォード大学のCenter for Computer Research in Music and Acoustics(通称CCRMA、元学生の私も「へえ、こんな研究所あったんだ」思ってしまった)というところで、様々なデータを音に変換するコンピューターアルゴリズムの研究プロジェクトを紹介している。プロジェクトのウェブサイトはこちらで、このページではインテルの株価の変動を音に変換したものであるとか、癌化した大腸細胞と正常細胞を比較したものをサンプルとして公開している。
聞いてみると、株価は何かの弦楽器、大腸細胞はお寺の梵鐘を連想させるものである。これを聞いて、「ちょっと音の感覚が短いぞ」「少し音が大きいようで、しかもハ長調じゃなくて嬰ハ長調だ」といったことを発見することを可能にするそうだ。
目的としては、データ分析に人間の耳が持つ、ピッチ、リズム、音量といった音の微妙な違いを聞き分ける能力を生かすことを可能にする、といったもので、例えば医師が聴診器で心臓の調子を診断するように、病理学者がガン細胞の有無を「耳で聞き分ける」といったこと、詳細は記されていないが、膨大なデータベース(電話の通話記録など?)の中からテロリストの活動を「聞き分ける、といったことを実現しようとしているそうだ。この最後のアプリケーションのためか、この研究は米国防省の研究機関であるDARPAの補助金を受けている。
余談だが、DARPAで検索したらこんなサイトに出っくわした。奇妙なのは、絵をクリックすると電気製品を売るサイトに誘導されることである。非常に妖しい。
面白いな、と思ったのは2点あって、まずはじめに、これだけコンピューターの高速演算による自動化された解析技術が進んでいても、場合によっては「人間の耳」による直感的なデータ分析と解釈が必要となる、と思われていること。コンピューターは分析はできても、洞察は得られない、ということか、それとも統計的には無視されてしまうような「微妙な違和感」を発見し、追及することが必要なアプリケーションが(テロの予兆なんてのはそうかも)あるのか。
次に面白いと思ったのは、この研究に携わっているのがエール大学の数学者と、CCRMA所属の音楽の準教授によって率いられている、という点。この音楽の先生、ちゃんと弦楽四重奏なども作曲している立派な作曲家だが、ブラームスの生のピアノ演奏を記録した蝋管からノイズを除去して元の演奏を再現したり、冒頭の人声がブラームスでないことを発見したり、といった研究もしている、「音のプロ」みたいな人のようである。数学者と作曲者のコラボレーション、なんだか良いではないですか。
上の研究成果を使い、インターネットのトラフィックを音化したら、どう聞こえるのだろうか。潜水艦のパッシブソナーに入ってくる海中のあらゆる音のように(聞いたことないけど)、渾然一体とした音の洪水なのか。はたまた、自分の更新アクセスも含めた、このblogへのトラフィックを音にしたらどうなるのか。バッハか、せめてシェーンベルグのようなものなら良いが、「笑点のテーマ」かドリフの場面転換の音楽だったらどうしよう。
とまあ、高尚なテーマから出発して、最後はくだらないことを考えてしまった、というある種私の典型的思考パターンを踏襲してしまった次第である。
水の結晶が音に反応して結成されることを研究した、面白い本がありました。江本勝の「水は答えを知っている」です。http://www.hado.com/books/kotae.htm
美しい音であればあるほど、美しい結晶が生成されるのだそうです。
「きれいだね」と時々声をかけるより、「きれいだね」と頻繁に声をかけたほうが美しい結晶になるそうですが、男性が恋人、奥さんに応用した場合、美人度アップに効果があるのでしょうか?期待できそうです。
Posted by: ...A | November 13, 2003 at 01:36 AM
コブラ(スタローンではなく寺沢武一)に、コブラが音を映像としてしか感知できなくなると状況で敵と戦うシーンがありましたな。これなどは逆のパターンなわけですね。また、ディートリッヒの間諜X27では、音符化した暗号が敵に奪われて、それを敵の将校が演奏したのを覚えて脱出後に味方に伝える、というシーンがありましたな。
Posted by: びっぐ | November 13, 2003 at 05:38 PM
Aさんへ:
>男性が恋人、奥さんに応用した場合、美人度アップに効果
>があるのでしょうか?
私はあまりほめるのが得意ではありません。反省の念もこめて、今度そういう機会があったらもうちょっと頻繁にほめるように致します。
びっぐへ:
「コブラ」の話は、音が映像、映像が音に変換されてしまい、最後は「心眼」でサイコガンを撃つ、という話だったような記憶もありますが、手元に無いので確認できません。
Posted by: Naotake | November 17, 2003 at 02:32 PM