作曲家の團伊玖磨氏のエッセイ集「パイプのけむり」のようになりつつあるiTunesの話だが(團氏についてはこちらのサイトが詳しい)、ここ数日、iTunesについて書いてきて、今年4月にiTunes Music Storeが開始されたばかりの時に、どんなことを考えていたのかな、と思った。
そこで、そういえばMUSE Associatesの梅田さんから川崎裕一氏の書いたこのblogに対する感想を求められたときにメールで書いたものがあったな、と思い出した。手前味噌とのそしりは覚悟し、少々長文であるが(ここまでおつきあい頂いている皆さんはもう慣れたのではないかとは思うが)、以下に引用したい。
川崎氏のBlog拝見しました。全般的に同感しております。以下はBlogの感想も含め、私が実際にiPod、iTunes、Music Storeを使ってみて考えた事を思い付くまま記したものです。ですので、あまり整理はされていませんし、そんな素晴らしいことも書いていないと思います。時間があればご一読下さい。
iTunesのユーザーとしては、川崎氏もご指摘の通り、iPod、iTunes、iTunes Storeという流れは個人としての音楽利用を完結させるもので、まさに「あったら良いな」と思っていたものです。また、ファイルシェアリングによる無料音楽コピーに伴う「罪悪感」が払拭されるということ、1曲99セントという手ごろな価格で、量の拡大を目指している、といった指摘もその通りだと思います。
プレイリストの共有や、ストアにあるダウンロードベスト10といった情報は、このサイトが音楽におけるアマゾンのようなコミュニティ的位置を目指す上での布石なのかな、と思っています。実際、私が先週何を検索し、購入したかはしっかり記録されているはずですので、お勧め曲などが(領収書と一緒に)メールで送られてくる日も近いと思います。
結局、領収書は領収書だけで、特に「お勧め曲」といったものは送られて来ておらず、サイトもまだ「アマゾン化」はしていない。
また、私としては、レコード会社にとってアップルは有料・合法の音楽ダウンロードサービスの実験相手として好都合であったが故にこのディールが成立したのかな、という気もしています(それには川崎氏ご私的のジョブズ氏のキャラクターはもちろん、PCと比べてのマックの普及台数の少なさも含まれると思います)。私がレコード会社のエグゼキュティブであれば、当面ユーザーがこのサービスをどう利用するか等についてのメトリックを定期的にアップルに提出させた上で、これが果たして自分たちの利益に適うものかにつき吟味を続けるでしょう。それによってPCへの当該サービス拡大、他の同種のサービスへのコンテンツ提供開始などについての決定をするのではないかな、と思います。
本当にこういう意思決定プロセスだったのかは分からないが、今回のウィンドウズユーザーへの拡大の背後には、何がしかの経済計算は働いているはずである。ここで書いているメトリック云々の話は、私が以前コンサルティングをした米国の大手ビデオレンタルチェーンが「レンタルテープ買い取り」から「映画会社との売上配分」にビジネスモデルを切り替えたときに、こういうことをしていたらしい、と聞いた話に由来する。
販売された曲数、新型iPodの販売台数、iTunesの新バージョンのダウンロード件数、既存iPodへの新ソフト(これがないと再生できないので)のダウンロード件数などのメトリックを追っかけていれば、どの程度購入者がいて、どの程度購入した曲がiPod間でシェアされているかについては推計可能だと思います。(ソフトをダウンロードはしたが購入のないお客というのをモニターすることは可能だと思うので)
さすがに、アップルも個人のiPodの利用状況をiTunes Music Storeに接続する度に、直接モニターするというようなことはやっていない、と信じたい。
実際のところ、アップルとレーベルの間でどんな交渉がなされ、どんな契約条件になっているかは非常に興味があります。アップルの定額による買い取り→売れただけアップルの儲け、というモデルは考えにくいのでおそらく売上配分だと思いますが、その場合99セントのうち、いくらがレーベルの取り分で、というのもレーベルによって違うのかもしれません。いずれにせよ、レーベル側からすればアップルを通じて音楽を売る、というのは少ない付加コストでこれまで違法コピーに取られていたマーケットの一部を取り戻せる上、特定の曲は買いたいがアルバムを丸ごと買う気はしない、といったニーズを取り込める(私がまさにそうでした…大学生の時に聴いていた曲をバラで買ってしまいました)のでビジネス的にはmake senseするとは思います。ダウンサイドは当面はマック間、iPod間のコピーにより思ったほど売れない、という点でしょうが、これとて1曲99セントならコピーの手間よりはダウンロードしたほうが早い、という人の方が多いと思うのでリスクは限定されていると思います。
このへんのエコノミクスについてはこれまでも書いたが、99セントを分け合っているとされている。その結果アップルの取り分は1曲当たり数セントで、固定費を考えるとiTunes Music Storeは儲かっていない、というのが定説のようだ。
さらに、レコード会社にとってもこれは新たなる販売・プロモーションのチャネルとなる可能性を秘めていると思います。売り出したい新人の曲を「おまけ」で1分だけタダでダウンロードさせるとか、もう十分稼がせてもらった古い曲を割り引きで売ったり、絶版になった曲をCDを再発せずにオンラインだけで売るとか(低コストで売った分だけ丸儲け)。
このへんは私の単なる思いつき。でも、いろいろ可能性はあるな、と思う。
最後に、川崎氏がソニーのことを持ち出していましたが、日本のコンシューマーエレクトロニクス業界全体として、アップルの今回の動きから学ぶことが必要なのでしょう。iPodはシンプルなインターフェースだがソフトウェアで多機能を実現しており、商品としての価値の大部分はソフトウェアにあるものだと思いますが、今回このサービスが登場した事によってその側面がより強調されたばかりでなく、「プロダクトサイクル」というものの考え方を変えてしまったののかな、という気がします。流行に左右されないシンプルなデザインのハードウェアで、ソフトウェアのアップグレードまたはその機器がつながっているネットワーク上のコンテンツやサービスの変更により機能を向上させる、という動きによりプロダクトサイクルが規定される製品も登場するのかもしれません。これは、ソフトがハードを駆逐する、という2者択一の議論ではなく、ハードアップグレードとソフトアップグレードの共存によりユーザーにとっての選択肢を広げる、という商品戦略も取りうる、ということなのかと思います。
アップルの現行のモデルからすると、マージンの少ない音楽ソフトの価値でマージンの高いiPodを売る、というPC業界とは正反対の価値構造になっているようだ。それにしても、最後に「元」コンサルタントらしく総括を試みているのが我ながら微笑ましい。ずいぶんと青臭いな、とも思うが、これはサービスに対する興奮のせいなのだろう。今もこうして書き連ねている辺り、アップルという会社、そしてこのiTunes、iPodというもの、私のような「テクノロジー玩具」好きの気持ちに訴えるものがあるのだろう。
余談に属する話題ですが、最近ではこんなニュースもありましたね。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030913-00000075-kyodo-ent
Posted by: びっぐ | October 19, 2003 at 11:41 PM
yublogの川崎です。
村山さんがガジェット好きだと知りました。
日本の最先端のガジェットを欧米のオタクに自慢するプロジェクトを立ち上げています。
http://nkcp.zive.net/kokoro/
まったり進行モードで進めています。英語も稚拙ですが、みためとアイディア勝負という感じです。打倒gizmodo。
Posted by: かわさき | October 27, 2003 at 05:53 PM