以前読みかけの時に紹介したClayton Christenses教授の「The Innovator's Solution」であるが、先日ようやく読み終えた。読み終えるのになんだかんだで2週間以上かかったのだが、その後読み始めたBruce Schneier氏の「Beyond Fear」というセキュリティの本はNY出張の行き帰りの飛行機の中でほとんど読了してしまった。(Shneier氏の本は、これまた非常に面白いので稿を改めて紹介したい)
こう書くとまるで「The Innovator's Solution」が読みづらく、つまらない本であったようだが、そういう訳ではない。かなりプラクティカルな本なので、書かれている内容をついつい自分の経験であるとか普段見聞きしていることに照らし合わせてしまうので、一気に読み通す、ということができなかったのである。(本書はまた、各章の最後の注解が単なる参考文献紹介にとどまらず非常に充実しているので、そこまできっちり読んでしまう、というのもその一因である。翻訳される際はぜひ注解にも十分手をかけて欲しい。)
さて、読み終えてまず思ったのが、冒頭にリンクしたポストで書いたときには「処方箋的」という言い方をしていたが、それは少し浅かったな、ということである。「処方箋」と言うと、「これを読んで、この通りすれば良い」というニュアンスであるが、そんな安易なものではない。
私がこれまで読んできて「面白い」と思ったり、何年たっても記憶に残っている経営の本というのは二つに分けられる。一つのカテゴリーは私の「ロマンチスト」と言われる性向(最後の方参照)と共鳴するような、ある種「高み」に到達した企業や個人について掘り下げ、感動やインスピレーションを誘う類いの本。「Built to Last」がその典型で、当然あまり数も無い。
もう一つのカテゴリーは、自分がこれまで経営コンサルタントとして顧客に接する際はもちろん、そして今のように会社経営の末端にいて「泥臭い」仕事をしている立場でも、自分や周囲の思考・行動両方におけるアウトプットを照らし合わせる自分なりのチェックリストの項目を増やしてくれるような本である。これは私見だが、「経験を積む」ということは、そういうチェックリストが形成され、「洩れ」が減りながら整理が進む過程なのだと思うし、「ユニークな価値を出す」というのはリストの中身が他人とは違っていることに起因するのだと思う。無論、「本」というメディアは一手段でしかないが、優れた本は自分が直接経験することによって一つずつ獲得するチェック項目には無い、複数のチェック項目を「体系化された」パッケージとして与え、それまで自分の中に溜まってきたチェック項目を整理し、新たな視点で考えるきっかけを与えてくれるものだと思う。
この二つのカテゴリーは相互補完的なものなのかな、と思っている。前者が長期的な方向性を与えてくれるものであるとすれば、後者はそこに到達するため、あるいは維持していくための冷徹な現実に取り組むことを可能にしてくれるものである。いうなれば、ビジネスの「ロマンチシズム」と「プラグマティズム」か。どちらのカテゴリーのビジネス書からもベストセラーが登場しているのは、この2つの概念が対立するものでなく、相互補完するものであるからなのだろうか?
話がだいぶ拡散したが、総括めいたことを言えば「Innovator's Solution」は、ユーザーに新たな価値を提供する製品なりサービス(決して「技術」そのものではない)をどう市場に出していくか、という命題に対し、新興企業・既存企業それぞれ固有の立場からどう取り組むかというテーマについて、納得感の高い「チェック項目」を体系的に提供している本である。
そして、本書を読んで役立てることのできる人は、英語の勉強をするのに英和辞典を使うのでなく、あえて英英辞典やThesaurus(類語辞典)を買って英語の語彙を増やすことを選ぶタイプの人なのかもしれないな、と思う。
ちょっと抽象的な話が過ぎたかな?
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