「ワインについて語る時の英語」についてシャルドネ、ジンファンデル、そしてソービニョンブランとこれまで取り上げてきましたが、今回はピノ・ノワール(Wikipedia記事)です。
ワインもある程度飲んで来て経験値が上がると、語る際に「どこの畑が」という蘊蓄を持ち出されてくる傾向があります。以前から友人たちと「同じ畑(Vineyard)で、同じ年(Vintage)に穫れた、同じブドウの品種(Varietal)」と条件を固定しておいてワインを飲み比べたらどんな違いがあるのだろうか、唯一の違いであるワインの「作り手」(Winery)の趣味嗜好、技術の違いが果たして出るものだろうか、という話をしていたのですが、先日ついにそういう飲み比べのイベントを、ピノ・ノワールを対象に行いました。
実はピノ・ノワールは
同じ作り手の、同じ畑の、同じブドウ品種を年だけ変えて飲み比べることを"vertical tasting"(縦方向の味比べ)と言いますが、この場合はさしずめ"horizontal tasting"(横方向の味比べ)ということになります。英語で説明すれば:
We held a horizontal Pinot Noir tasting event comparing wines made from the same varietal grown in the same vintage from the same vintage, but from different wineries.
(同じ畑で、同じ年に穫れた、同じピノ・ノワールを使って異なるワイナリーが作ったワインの横方向の味比べを開催しました)
ピノ・ノワールという品種は味や香りの繊細さが身上で、しかも穫れた畑の土壌成分や日照条件そして気候(フランスでterroirと総称します)、そして作り手といった構成要素の違いがワインに強く反映され、またそれがまた魅力となっているものなので、こうした飲み比べはとても面白いであろう、という期待をもってこのイベントに臨みました。
今回「畑」として選んだのはサンノゼの南、モントレー湾から内陸に少し入ったところにあるSanta Lucia HighlandsというAVA (American Viticultural Area: 米国における「ワイン産地」を細かく区分した概念)に属するGarys' Vineyardという、ピノ・ノワールとシラーを育てている50エーカー(20ヘクタール)の小さな畑です。どこかのワイナリーに付属している畑ではなく、ブドウだけを作っており、カリフォルニアの著名ワイナリーに卸しているgrowerという生産の専門家であり、しかもアメリカでは数少ない、畑の名前がブランド化しているところです。さしずめ「ゲーリーさんの畑」ということになりますが、ここでGary'sという単数所有格でなく、Garys'という複数所有格になっているのはオーナーが2人いて二人ともGaryというファーストネームだからです。
肝心のワインですが、参加者の手持ちにあった2本と、ベイエリアの有名ワインショップで在庫を見つけた2本、合計3本をピックアップしたのですが、ピノ・ノワールだけでも面白くないので、4本中3本が2007年産のピノ・ノワール、残り一本は2006年産のシラーという構成となりました。以下は今回揃えた4本の写真です。

左から順にワイナリーと品種を列挙すれば:
Testarossa Winery 2006 Garys' Vineyard Syrah (写真)
- Testarossa Winery 2007 Garys' Vineyard Pinot Noir (写真)
- Lucia 2007 Garys' Vineyard Pinot Noir (写真)
- Loring Wine Company 2007 Garys' Vineyard Pinot Noir (写真)
全て地元のワイナリーで、どこも専属の畑は持たず(LuciaだけはGaryさんの片割れが経営していますが)、ブドウを良い畑から買い付けて来てワイン作りの技だけで勝負、というところです。狭い畑なので、どのワインも生産量は200ケース以下と少いものです。
ピノ・ノワールは注ぎたてから飲み終わりまで、そして瓶を開けてから空けるまで、のそれぞれの過程で香りと味が移ろい行くその過程が最大の魅力だと思います(このイベントの参加者で「一杯30分は嗅いでいられる」という発言をされた方がいます)ので、実際のテイスティングは、ピノ3種類(上記2~3)を数回に分けて飲んで開けたてから飲み終わりまでの変遷を楽しみつつ比較し、ランク付けをした後に「お楽しみ」として1.のシラーを飲むという形で進行しました。
ランク付けこそしていますが、味の「優劣」をつけるのが目的ではなく、こういう実験的環境で参加者8名の「好みの違い」がどう出るかを調査しよう、という趣旨でした。
肝心の結果ですが、予想通り3者三様相の結果でした。なお、以下は私の個人的評価をもとに記していますので、当日ご参加の方々でこれを読んで異論のある方はぜひコメントを。
まずは「香りは素晴らしいが、味はちょっと…」と順位では最下位となってしまったLoring。ここは長期熟成を志向しているようなので、2007年のものを味わうには早かったかもしれません。
The Loring 2007 Pinot Noir had the best nose, with a strong violet and rose bouquet with a hint of orange. The taste was fruity, but it felt a little underdeveloped. Had the most gap between the aroma and the taste of the three we tasted.
(Loringの2007年ピノ・ノワールは香りは一番で、スミレやバラのような香りに、ちょっとオレンジっぽさが加わっていた。味の方は果実味は強いものの、いささか発展途上、という印象を受けた。今回テイスティングした3つの中では最も香りと味のギャップがあったと思う)
次は2番となったTestarossaの2007年ピノ・ノワール。このワイナリーの作るピノ・ノワールには「テスタロッサ色」とでもいうべきフルーティな香りと、総合的なバランス感覚の良さとしか表現のしようのない特徴があるのですが、このワインも例外ではありませんでした。
The Testarossa Pinot had the best balance of aroma and taste. The aroma had up front cherries and raspberries, giving way to some clove and pepper-like spiciness, and then some cola. The taste is on the sweet side, but nicely balanced with acidity. Overall, a well-rounded, rich wine.
(Testarossaのピノは香りと味のバランスが最も良かった。まずチェリーやラズベリーの香りがして、やがてクローブやコショウのようなスパイシーさが出て、コーラのようになる、というものであった。味は少し甘めだが、良い感じの酸味により補われている。総合的には調和のとれた豊かな味わいのワインである。)
そして、ピノのトップになったのは、Lucia。とにかく個性的で、本当に他のワインと同じ畑なのか、と思わせるものがありましたが、最初の「くせ」を乗り越えると病みつきになる複雑な味でした。
Everyone thought that the Lucia had a "gaminess" consisting of a smoky bacon-like aroma, which turned them away at first, but once they got over that it was agreed that this had the most depth and complexity, with berries supported by a platform of earthiness, with mushrooms, truffles and chocolate.
(みなLuciaのベーコンのような「獣臭さ」に始めは抵抗を感じていたが、それを乗り越えるとこれが最も深みと複雑さを持っているということで見解が一致した。ベリー味がキノコやトリュフ、そしてチョコレートのような「土の味」に支えられていた。)
ということで一応ランクはついたものの、くピノ・ノワールがいかに複雑かつ千変万化する、「違い」と「幅」を楽しむワインであるかを思い知らされました。上では一応書いてはいるものの、つくづく言葉でこのワインを表現することの限界を思い知りました。また、ピノ・ノワールというものが最初の香り高さから一旦落ち着いてしまってその後また豊かになるのだな、と実感させられました(参加者の一人はこれをflattening out=一旦底を打つ、と表現してましたが言い得て妙だと思います)。
ただ、このイベントの本当の勝者はこのあとに飲んだTestarossaのSyrahでした。ワイナリーでテイスティングした時点でこれは別格だ、と思っていたのですが、言葉での表現などを考えている余地はなく、ただひたすら「旨い、旨い」と没入してしまうような、そんなワインでした。従って、いらぬ言葉を書き連ねることは控えておきます(笑)。
実はシラの後にもう一本ジンファンデルも飲んだのですが、申し訳ないですが印象に残っておりません…。
そして、このイベントでのお食事はピノノワールとの相性の良いサーモン。厚めの切り身を低温でゆっくりと焼き上げました。

こちらもシンプルでありながら滋味に溢れておりました…。
こうしたテーマを決めた飲み比べにすっかりはまってしまいましたので、また開催しよう、という話も進行中ですので、いずれまたこちらで取り上げる日も近いでしょう。
Recent Comments